前腕骨遠位端に生じる骨折の手術法

高齢者が転倒して肘を付いた場合、手首や肩付近と打撲部位より離れても骨が弱っている部位に介達外力骨折を生じ易いのですが、若者の骨折では螺旋骨折を除いて殆どは打撲部位に直達外力骨折が生じます。

肩付近の上腕骨外科頸骨折など様々な上腕骨の近位端に生じる骨折、橈骨遠位端骨折など様々な前腕骨の遠位端に生じる骨折では、整復しても短い方の骨折端を固定しにくい事、下肢の骨折に比べて多少の変形を残して治癒しても日常生活への影響が少ない事、期間をかけて自然に骨癒合するのを待っても生活の不自由さが少ない事、などの理由から手術をしないでギプス固定で治すことが多かったです。

しかし最近では、図1に示すような骨折端部をしっかりと固定する手術療法が開発され、変形を残さず早く骨癒合をさせる手術療法が盛んになっています。


(図1 橈骨遠位端骨折に対する手術療法)

肘頭骨折の手術法

まれに肘を付いて倒れた際の直達外力が肘を覆っている肘頭部を割ってしまう肘頭骨折を生じることがありますが、この骨折では肩側の短い骨折端は常に上方に引っ張られ、骨癒合が始まりません。多くの骨折では、骨折片の両端が筋肉の力で圧迫されて食い込み、骨癒合を始めますが、肘頭骨折や膝蓋骨骨折などは常に骨折端を離そうとする筋力が働く希な骨折です。そこで、肘頭骨折では図2の様に骨に注し込んだ鋼線に両骨片を8の字に結んだワイヤーを引っ掛け、肘を曲げる度に骨折端は圧迫されるといった方法で、しっかりと整復・固定をします。



(図2 肘頭骨折にワイヤーで8字縫合固定)

上肢骨折治療中も外出して元気な体を取り戻す

上肢の骨折は歩行に支障がない、骨折していない方の手指を使える、などのために余り不自由しない骨折と思われています。しかし、高齢者にとっては片方の上肢を自由に使えないように固定しただけでも体のバランスを崩して転び易くなります。

また、ギプスを巻いている、骨折した上肢が腫れている、などを他人に知られたくないとの理由から家に閉じこもり気味となる高齢者が多くいます。しかし、骨折した腕をおしゃれなカバーで覆い、首から吊り下げて毎日外へ出て活動する、日光に浴びる、などで転ばない体作り、強い骨作りをする事が大切です。

医師が患者さんに骨折を治療して元気な体を取り戻していただく目的は、生涯にわたり住み慣れた場所で以前と同じような生活を取り戻すこと、寝込んでいた患者さんが再びご家族や周囲の人に大事にされて頼られること、そして患者様が密かに抱いていた生き甲斐・念願を実現させることなのです。

2019.05.21公開 著者:原宿リハビリテーション病院 名誉院長 林 泰史先生 編集:骨折ネット運営事務局(株式会社プロウェーブ)