~最初に背骨が変化するのはなぜ?

高齢になると、若いときに比べて身長が低くなったり、背中が丸くなったりする人が多くなります。その多くが、骨粗しょう症によって背骨が微細な骨折や圧迫骨折で変形したためにおこります。背骨は骨の中でも特に早く弱くなりやすく、骨粗しょう症が生じると背骨が変形したりつぶれたりすることが多くなります。骨粗しょう症になっても自覚症状はほとんどありません。しかし、身長や背中の変化は骨粗しょう症の重要なサインとなるので、見逃さないようにしましょう。

骨は性質の異なる2つのタイプの「骨」でできている

骨は、脳や心臓、肺などの大切な臓器の保護や、歩いたり体を持ち上げたりといった体を支える役割を担っています。

骨は外からみるとすべすべとした表面をしていますが、断面をみると大きく2つのタイプで成り立っています。

ひとつは「皮質骨」と呼ばれる骨で、骨の成分がびっしりと詰まり、強度は非常に高くなっています。手足の細長い骨(長管骨)は、力を入れたり押したり蹴ったりといった動作が効率よく行えるように、この皮質骨の割合が多くなっています。

もうひとつは「海綿骨」と呼ばれる骨で、断面がスポンジのようになっています。海綿骨は、骨梁(こつりょう)という細い繊維状の骨が組み合わされた構造をしていて、厚紙の間に波打った紙を挟んだダンボールが軽くて丈夫なように、少ない骨の組織で効率よく強度と形を保っています。背中の骨や腰の骨、かかとの骨などは、ほとんどがこの海綿骨でできていて、その周りを硬い皮質骨が薄くとり巻くことで強度を保っています。

海綿骨は皮質骨に比べて表面積が広く、その差は10倍ほどにもなります。骨代謝(※)を担う骨芽細胞と破骨細胞の数は、表面積の広さに比例して存在します。そのため表面積が広く、細胞の数が多く存在する海綿骨の方が、皮質骨に比べて骨代謝が活発に行われるものの、骨代謝のバランスが崩れてしまうと、海綿骨の方が皮質骨よりも早く影響を受けてしまいます。つまり、骨粗しょう症が生じると、海綿骨を多く含む骨ほど早く骨量が減少し、弱くなってしまうことになるのです。

このような特徴があることから、骨粗しょう症の検査で骨密度を測るときは、最初に骨の変化が現れる海綿骨の骨量を調べることが多いです。

※骨の新陳代謝のこと。古くなった骨を破骨細胞が溶かし、骨芽細胞が新しい骨をつくる。

骨粗しょう症で最初に変化が現れるのは腰椎や胸椎

骨粗しょう症が生じると、すべての骨が一様に弱くなるというわけではありません。最初に変化が現れるのは海綿骨を多く含む骨で、背骨の中でも背中の骨(胸椎)と腰の骨(腰椎)が真っ先に弱くなります。

背骨は重い頭を支えながら体のバランスをとったり、曲げたり伸ばしたりと、しなやかな動きが求められます。これらの役割を果たすために、背骨は1本の骨ではなく、椎骨と呼ばれる小さな骨が連なって形成されています。首の骨(頚椎)は7個、胸椎は12個、腰椎は5個の椎骨が連なって、横から見るとS字に緩やかなカーブを描いています。そして、これらの骨は大部分が海綿骨でできています。

腰椎や胸椎の前方1/2を占める椎体は円柱形をしていますが、断面は四角い形をしています。ほとんどを、海綿骨が占めていて、その周りを薄くて硬い皮質骨が取り囲んで骨枠を形成しています。その様子は、食パンの切り口のようなきめ細やかな海綿骨の周りを、皮質骨がパンの耳のように取り囲んでいるかのようです。ところが、骨粗しょう症になって海綿骨が減ってしまうと、断面が食パンではなくフランスパンの切り口のように大きな穴だらけになってしまいます。さらに病気が進行すると、パンの耳に当たる皮質骨も薄くなってしまい、骨全体がやせ細って弱くなります。

健康な人と骨粗しょう症の人の腰の骨を比べると、変化がよくわかります。健康な人の椎体はカルシウムの多い骨梁がびっしりと詰まっていますが、骨粗しょう症の人は骨梁が減ってしまっているために、穴だらけになっています

体重の1/2が加わる上に、前かがみの動作が多い

では、骨粗しょう症になると、どうして最初に腰椎や胸椎に変化が現れるのでしょうか? それは腰椎や胸椎に海綿骨が多いという理由に加えて、頭や体の重みを支える役割があることに関係しています。

腰椎には、日頃から体重の約半分の重さが加わっています。それだけに強度が必要になるのですが、海綿骨の骨量が減ってすかすかになってしまうと、その重みを十分に支えきれず、わずかな力が加わっただけでも骨がつぶれてしまうことがあります。

骨粗しょう症によって腰椎や胸椎がつぶれることを、椎体骨折(圧迫骨折)といいます。骨粗しょう症の初期にはほとんど自覚症状がありませんが、進行すると椎体骨折が生じて「背中が丸まる」「身長が低くなる」「背中や腰の痛み」と3つの症状が現れるようになります。これらは骨粗しょう症の三大症状と言われていますが、骨折が生じても痛みがないという人も少なくありません。しかも、体の変化は急激に現れるわけではないので、椎体骨折が起こっていることに気づいていない人も多く、2/3は自覚症状がないとされています。

背中が丸くなるのは、椎骨は全体的につぶれるよりも、前側がつぶれることが多いからです。背骨の後ろはたくさんの骨で支えられていますが、前方には支えがありません。また、日常生活の中で作業や動作をするときは、前かがみの姿勢がほとんどです。そのため、前側の方がより負荷がかかりやすく、椎体が弱くなると前側がつぶれて背中や腰が丸くなります。

腰や背中の痛みは他の病気のサインのことも

背中や腰の痛み、身長低下などは、骨粗しょう症の重要なサインではありますが、他の病気が原因であることもあります。骨や椎間板などの変化は年齢とともに多くの人にみられ、それによって痛みが生じていることもあるのです。

高齢者に多いのは、「胸部・腰部脊椎症」と呼ばれる病気です。加齢に伴い骨と骨の間でクッションの役割をしている椎間板が薄くなると、骨や椎間関節などが変形したり、椎骨の縁などに骨棘(こっきょく)と呼ばれる新しい骨ができたりして、痛みが生じます。また、椎間板が薄くなることで、身長が1~2㎝低くなることもあります。

もうひとつ、高齢になると増えてくる病気に「脊柱管狭窄症」があります。椎骨の後ろ側には丸い孔があり、一つひとつの椎骨が積み重なって筒状の脊柱管という空間を形成しています。ここには神経の束である脊髄が通っていますが、加齢による骨の変化などで脊柱管が狭くなると、神経が圧迫されて痛みやしびれなどが起こります。

それ以外にも、本来はきちんと積み重なっているはずの椎骨が、支えが弱くなったことで前方や後方へずれる「脊椎すべり症」という病気もあります。この病気が生じると、痛みの他に足にしびれを生じることがあります。また、以前感染した結核菌が肺に潜んでいて、抵抗力などが落ちたときに背骨に移ってきて発症する「結核性脊椎炎」という病気でも、痛み以外に身長が低くなったり背中が丸くなったりします。

痛みや背中の丸まり、身長の低下などは骨粗しょう症以外の原因も考えられます。異常を感じたらきちんと検査を受けることをお勧めします。

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