骨を強くして骨折を予防しQOLを高める

骨が弱くなってもっとも怖いのは、骨折を起こすことです。骨折をすると日常生活が困難になるだけでなく、生活の質(QOL)が低下します。また、体力や筋力が低下して骨折を再発する危険性が高くなることもわかっています。骨粗しょう症の治療は骨を強くして骨折を防ぐことを通じて、QOLや体の働きを維持することを目的に行われます。

骨が弱くなって骨折すると生活の質が低下する

骨は非常に硬い性質をしていて、日常生活で少しぐらい力がかかっても、負けない強さを持っています。このように骨が硬いのは、骨には多くのコラーゲン線維が走って柱をつくり、そこにカルシウムなどのミネラルがくっつくという構造をしているからです。ところが、閉経や加齢、病気、生活習慣などが原因となって、骨の中のカルシウムの量(骨量)が減ったり、柱が弱くなったりすると、骨の内部がフランスパンの切り口のように穴だらけになって骨がもろくなります。これが骨粗しょう症です。
骨粗しょう症になってもっとも心配されるのは骨折です。骨折をすると長期の安静が必要になることがありますが、その間筋力などの運動機能や、脳や心臓を含めた全身の機能も低下しがちです。すると、日常生活での不便はもちろん、今までのような社会生活が送れなくなったりします。あるいは椎体骨折(背骨の圧迫骨折)により背中が丸くなることで衣服が合わなくなるなど、精神的な負担がもたらされることもあるでしょう。
心身の健康に伴う充実感だけでなく、社会生活への参加でもたらされる幸福感や個人の自己実現など、さまざまな要素を総合して、満足度の高い人生・生活が送れているかをQOL(生活の質: Quality Of Life)の指標で表します。QOLの指標を著しく低下させる要因として骨折があげられます。そのため、骨粗しょう症の治療は、骨を強くして骨折を予防すると同時に、質の高い日常生活を維持することを目的に行われています。

まだ骨粗しょう症になっていなくても骨折の危険性が高い人は治療が必要

骨粗しょう症は既に骨折を生じているか、または腰椎では20~44歳の、大腿骨近位部では20~29歳の若年成人の骨密度の平均値を100%としたYAM値で70%以下であるかで診断されます。骨密度がYAM値で70%以上でも、太もものつけ根(大腿骨近位部)や背骨(椎体)などに脆弱性骨折(骨がもろくなることで微弱な力で生じる骨折)をした経験がある人では、骨粗しょう症と診断されるほど骨折の既往は重視されます。
骨粗しょう症と診断されると治療が開始されますが、そうでない人も将来の骨折のリスクが骨粗しょう症の人と同様に高いと判断された場合、薬物治療が検討されます。女性では閉経以降、男性では50歳以降に軽微な外力によって大腿骨近位部と椎体以外に脆弱性骨折が生じた人、家族に大腿骨近位部の骨折がある人、過度の飲酒や現在喫煙をしている人、FRAXの数値が15%以上(今後10年間で起こる主要骨折の確率の評価)の人などです。このような人では骨量がある程度保たれていても、将来骨折するリスクが高いとされ、骨量減少の段階から薬物治療の対象となります。